バングラデシュ南部避難民救援事業より医師が帰還しました

2018年07月31日

　高山赤十字病院では、日本赤十字社を通じ、国際赤十字・赤新月社連盟(以下　IFRC)の要請を受け、外科医白子隆志医師を国際医療支援に派遣しました。約１ヶ月の派遣期間を終え、7月9日に当院にて出迎式を行いました。

　活動期間：平成30年6月9日～7月4日

　活動場所：バングラデシュ南部　コックス・バザール郊外　

　ノルウェーとフィンランド赤十字が設置・運営するフィールド・ホスピタル（野外病院）に

　て外科医として勤務。

白子医師の報告

　2017年8月25日以降、ミャンマー・ラカイン州での衝突を逃れバングラデシュに避難した人の数は70万人以上にのぼり、難民キャンプでは生活環境の悪化により多くの医療を必要としている人々が増加しています。日本赤十字社では2017年9月16日以降、120人を超えるスタッフが基礎保健ERU（緊急医療ユニット）として派遣されました。国際赤十字連盟では2017年10月16日より、フィンランド赤十字がノルウェー赤十字とともに病院型ERU（テント野外病院）を展開しています。今回、外国人スタッフ（外科医）として派遣されたので、現地での活動を簡単に報告します。

病院入口（難民キャンプに隣接）

病院の位置、気候

　フィンランド赤十字･ノルウェー赤十字が有する病院型ERU（テント野外病院）。小児、男性、女性、産科病棟（テント）で約50床、救急外来、手術室を有し、約30人の外国人スタッフ（医療職のみならず水･電気･物資調達要員も含まれる）と･現地スタッフとともに運営しています。電気はすべて自家発電でまかない、水･食料･住居（テント）なども敷地内で自己完結しています。レントゲン写真は撮影可能ですが、手術機材･薬品などの医療資源は限られている環境の中、主に避難民に対する急性期外科･産科病院として機能しています。

手術室（テント外観）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　手術室内部

活動内容

OPD（救急外来）には、直接訪れる患者や、近隣の医療機関（クリニック・国境なき医師団の病院）などからの紹介患者が毎日数十名受診してきます。その多くが、転落や交通事故での外傷（傷･骨折など）、皮膚･筋肉内の膿瘍（うみ）、発熱などの感染症で、半数以上が女性や子供たちでした。

OPD（救急外来）での診察

　私は外科医として赴任（派遣中の多くは医師が自分一人）し、病棟回診、カルテ記載、指示だしなど約20-30名の入院患者の病棟管理を行い、救急外来からの呼び出しや処置のほか、一日約5-6件、3週間で100件の手術を行いました。

手術の様子

　手術室はテントであるため、限られた照明、空調、医療器械の中で行いました。ハエの侵入が多いため清潔を保つことは困難でした。子供の症例が多いため、ガーゼ交換や、簡単な切開排膿（膿を出す手術）でも全身麻酔で行わなければならず、時間と手間がかかります。腹膜炎手術、骨折手術、植皮などの形成外科手術なども限られたスタッフと器械で行うため通常よりも難しいものでした。

　手術後は、病棟まで我々スタッフ（運転手たちの協力も得て）で患者さんを布担架で運びます。

　手術後の管理は、心電図モニターはなく、限られた点滴と抗生剤、鎮痛剤で行うため、重症頭部外傷や人工呼吸器が必要な重症症例は救命をあきらめるしかありません。過去に私が経験したアフリカ、アフガニスタンなどでも同じで、日本では助けられる命も現地では助けられないことがあります。また、日本であれば簡単に診断できることが現地ではできないジレンマを痛感しました。

　今回の派遣でも地元のベンガル語を憶えることによって患者さん、現地スタッフに近づくことができ、元気になった患者さんや家族が笑顔で退院するのが、疲れを癒す力になりました。一方で、帰国時に患者さんやスタッフから「帰ってほしくない」といわれることが一番つらいことでした。